■ タピスリー(都電荒川線編)2007.9.5

東雲はじめ

「わぁー、来た!」

車道を縫ってやって来る足音は、都会の喧騒の中に溶け、その姿だけが
私の視界を埋めて行く。錆びたような、擦れる音を小さく響かせ、あなたは
私の前に立ち止まった。バリアなんて初めっからない
荒川さん、 「こんにちは」

「160円はー、 …? (あぁ,このポケットね!)はい!」
♪チンチン♪
遠慮しながら空席の一つへ。 JR大塚駅高架下から午後の日差しの

中へ、あなたは走り…、 (ん!?)、歩き出した。床下から響く鼓動

が心地よかった。競争の世界には全く縁のない空間があった。あな

たが見せてくれる初めての景色に、私の視線は忙しかった。首を車

窓いっぱいに擡げ、見上げても、その足先しか見えないようなビル

たちが作り出した谷を、乾いた風に洗濯物たちが揺れる挟い物干し

の脇を、手を伸ばせば握手してくれそうな軒先を抜け、冬眠してい
る飛鳥山の桜に春を夢見て、交差点では、横断歩道と言うスタート
ラインに自動車と肩を並べるあなたと一緒に、緑のシグナルを待っ
た。

「私、一つ、あなたに『ごめんなさい』があるの」

(お仕事の移動中ですか?ビジネスマンさん)

(かわいいバッグを広げ、試験勉強かな?お嬢さん)

(ネギが覗いてますよ! 、お母さん。今日の夕食は何ですか?)

(車椅子にも優しいですよね!、おじいさん)

(巣鴨はいかがでしたか?おばあさん)
(ママの温もりの中でお休みなさい、赤ちゃん)

「過去の栄光の延長線上にいるのではなく、懐かしいと言う思いの

 中に住んでいるのでもなく、現在を、共に生きていたのね。誤解

 していた、私。ごめんね。」

三ノ輪橋では、あなたを残して町を散策に。

「行ってきま-す」
♪チン♪
と言っても地図もなく、迷子にならないようにホーム近くの商店だ

けを見て,喫茶店で一服。レスカを飲みながら、隣りのお店で買っ
た10円饅頭をテーブルの下に隠しながら口の中へ、ボン!バイ
トのお兄さんに都電最中のことを尋ね、
「ただいまあ〜!荒川さん。最中を買いに行くわ!」
♪チンチン♪

13コ目の梶原で、電停に寄り添う売店のおじいさんからタバコを

買い、軌道を渡り、そのお菓子屋さんのドアを引き、

(どーれ・に、しーよう・か・な?)

「これお願いしまーす」
愛らしい都電が詰まった一箱を手に提げて、あなたと私の小さな旅
は、明日に向かってライトを0Nした。


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